2011年3月11日、大震災の夜、東京のすみだトリフォニーホールでは新日フィルの定期演奏会が予定通り行われたそうです。
翌年に放送されたNHKのドキュメンタリー「3月11日のマーラー」をみて、このことを初めて知りました。
1800人のホールに100人程の聴衆。オーケストラより観客の数がちょっと多いくらいでしょうか。
東京もすべての交通機関、電話、ストップしていましたから、団員もお客も徒歩または自転車。何と、ボーイスカウト走りで駆けつけたという演奏者がいました。楽器も持っていたかなあ。駆け足で40歩、その後歩いて40歩、これを繰り返すと疲れずに長い距離走れるのだとか。
地震の瞬間まで指揮者もオーケストラのメンバーも、おそらく観客も、心は演奏会へ向けて準備万端、だったに違いありません。何が起きているか未だ正確に把握できないままに、というより少しずつ入ってくる情報と余震に不安を抱えながらの演奏会。東北出身の方はどんなに心配だったことでしょう。
曲はマーラーの交響曲5番。
あれから「音楽の力」という言葉もたくさん聞きましたが、私は指揮者のダニエル・ハーディングが番組の中で語った言葉が忘れられません。
『音楽は苦しみの大きさを理解する大きな助けになります。あの日マーラーの5番を聴いたことで被災した人たちの痛みをより深く理解することができるようになれたのでは、と自分に言い聞かせています。』
『演奏が終わって数分もすればもとの悲しみに引き戻されます。でも、音楽が続いている間はマーラーが暗闇から光りが差し込む場所へと導いてくれるのです。』
『大切なことは、お客様も演奏者も音楽を必要としているあのときに音楽を演奏したことです。そこに価値があったのです。』
震災のあった2011年12月にブリーズノートは第1回の企画コンサートを開催しました。生のコンサートを気軽に楽しんで頂きたいと、お茶とお菓子をご用意してちょっとおしゃれなティータイムコンサート。出演はソプラノ山口佳子とピアノはオペラのコレペティトゥーアで指揮者でもある仲田淳也のお二人でした。
ブリーズノートをたちあげて初めての企画コンサート、プログラムにはこう書きました。
『音楽を聴く時に胸に抱いている想いは人それぞれで違うことでしょう。
演奏を聴きながら一人涙することもあるかもしれません。
けれどすぐれた演奏の後には、隣の人と顔を見合わせ、頷き合いながら喝采をおくる、
そこに生のコンサートの醍醐味があります…』
『…厳しい冬の寒さを迎え、懸命に生きる人々のことを想い、たとえ小さなことでもひとつひとつすべてのことが次に来る春への希望につながることを願い、祈ります。』
震災から4年、毎年春を待つこの時期になると、マーラーと新日フィルを思い出し、ハーディングの言葉、それから自分自身のあの頃の想いをかみしめます。
小さなコンサートをひとつずつ、ひとつずつ大切に積み重ねてきましたが、出発点の想いは変わらないなあと、番組を見てからずいぶん時間が経って改めて感じています。
さあ、今年も地球のいたるところで音楽があるはず、ありますように。
子どももおとなも誰もが音楽を楽しめますように。
ブリーズノートも選りすぐりで皆様のところへお届けしますよ。
ぜひご一緒に、拍手喝采しましょう。
コメントをお書きください